職業婦人のドル報告(1937年)

2016.08.09

昭和12年、働く女性たちの職業と給料、使いみちなどをルポルタージュ。
洋裁学院の洋裁師がいちばん高級取り、60円。次点が丸の内の商事会社のタイピスト。サラリーマンの平均月給は100円と言われていた時代です。
昭和初期の貨幣価値を大雑把に見る方法として、現代の金額に2500をかけるというものがあります。それに当てはめると、60円は15万円。バスガイドの溝呂木ハナさんなんて23円ですから、57,500円です。

もっとも物価は時代につれ刻々と変化していますから、この×2500の法則は、必ずしも当てはまりません。「値段史年表 明治大正昭和(朝日新聞社刊)」によると、
あんみつ 13銭(昭和10年)
ビール 37銭(昭和12年)
映画館入場料 50銭(昭和8年)
銀行の初任給 70円(昭和12年)
帝国ホテルの一人室 10円(昭和5年〜15年)
などなど。


戦前の雑誌から
職業婦人のドル報告
をんな 1937年(昭和12年)7月号
萬里閣 定価40銭

IMG_6003

a デパアト・ガアル
b タイピスト
c 女車掌
d 官省事務員
e 洋裁師

半分はお母様が
 ××デパート 関根加代子 拾九歳
 収入 三十円
 支出 三十円
 内訳 十五円 家へ。---お母さんが、使ってしまいます。私のお弁当のお菜の代もきっとこのなかから出るんでしょう。お小遣いのたりない月はこの中から少しいただくことになります。
 二円五十銭 電車賃
 五円 お化粧代。---私の売場はネクタイのとこです。男のものを売るところは食料品とか商品券とかベビイ用品とかの売場よりましなひとを使うんですってね。ですからどうしてもお化粧代がよけいにいるわけになっちゃいます。こんな売場で自分の売上げを出来るだけ多くするのにはどうしても綺麗になってなくちゃなりませんもの。勿論マネキンさんみたいな強いメエキアップはしやしませんけど、クリームだって口紅だって、粉白粉だって安物はいやでしょう。爪の手入もよくしなければみっともないし、髪はパーマネントをかけてます。でも普段は油をつけてきちっとしてますからちっとも派手じゃありません。ただ八の日のお休みだけは自分の好きな様にセットします。私洋装はこの頃、全然しないんです。ですから着物の方にとても予算がいるんですけど。
 五円 衣装代。---これっぽちじゃ思う様にちっとも行かず情けない限りです。一日中立ってるんで、草履だって月に一足は買わなければ駄目ですし、足袋がとてもいるんです。足袋と半衿は白いので毎日お洗濯をお母さんにしてもらいます。草履はどうせすぐ悪くなるからお店でなるべく安いのを買うことにしてます。着物だって場所柄、あんまり同じのを着てられないし、それに一寸見たとこいい柄でも人絹なんかいやですし、売場に新しい呉服が出ると、とたんに五反も六反も買ってしまいたくなっちゃいますけどそれも出来ません。ほしくてほしくて仕様がないのにとうとう買えないでいると、その着物をきたお客様なんかが、アベックでネクタイなんか選ってたりすると何だか癪にさわって仕方なくなっちゃいます。こんな時のうめあわせにボーナスが出た時は出来るだけ着物買うことにしちゃいます。
 二円五十銭 お小遣い。---ああ足りない足りない。これじゃ月に三度のお休みにもろくに映画もみられないことになっちまいます。

お小遣いは内職で
丸ビル××商事 唐木ゆみ 二十三歳
 正確に云うとあたしのサラリーは五十円、だからよく人に云われる『よくそれで二十円なんてアパートに一人でいられるね』って。だって、あたしそりゃもりもり働くんですもの。あたしんとこの社、仕事の関係で、外国雑誌の翻訳も少しはしなければならないでしょう、それをひきうけてるの。大抵月に三冊位い、原稿用紙で十枚もすればいいのよ。それで三十円いただけるから、合せて八十円の収入があるわけね。でも毎月やっとなんですもの、いやんなっちゃう。まず部屋代をはらうでしょう、二十円。家具付の部屋だからせまいけど便利よ。食費は朝はパンとミルク、お昼は会社の近所で二十銭位のものを何かしら食べます。晩はきまってないけど、一週間に一度や二度は銀座辺りで豪遊しないと気がすまないのよ。それから毎日一度はおいしい珈琲のみたいし、でもこれはあたしが出さないですむの、何故って男のお友達が必ず出してくれるんですもの。
 服だって毎月一枚は作らなきゃならないし、靴も三足はちゃんとしたのがなけりゃ駄目だし、お帽子やハンドバックや口紅やクリームや、毎月買うものばっかしよ。髪もパアマネントをかければ時々セットしに行かなければならないし、それから、新しい映画はどうしても見なけりゃならないし、こう見えてもなかなか大変なのよ、わかって?
 今日も帰りにサエグサで見たけど、とても素晴しいレエンコートと対の帽子、あれ、どうしても欲しいけれどそうすると翻訳だけじゃたりないし、どっかにいい内職はないものかしら大いそぎでさがしてくれない?

ストップ、ストップ何にも買えません
××バス 溝呂木ハナ 十九歳
 お母様
 お手紙二度とも拝見いたしました。
 そちらは春蠶(はるこ)でみんな忙しくて、大変でしょうと思ってます。
 お手紙に、これから毎月十円程ずつ送ってくれる様にってありましたけど、そんなことお母様、とうてい出来そうにもありません。今までの五円ずつだってやっとのことなんですもの。一緒にいる村野さんなんか、一銭も送るとこもないのに年中やりきれないやりきれないと云ってる位です。こんなことを云うとお母様は二十三円もとっていながら、っておっしゃるかもしれませんけれど、本当にいっぱいなんですから、私の云うことをよく聞いて下さい。二十三円のうちから会社の方で二円は積立金や、何かで引かれて、四円五十銭は間代にとられるでしょう。今いる家は六畳で村野さんと二人で半分ずつ住んでますけれど、これからは西日が当たってとても暑くてたまらないからもう少しいいとこへかわりたいと思っている位なんです。でもそうすればもう少し高くなるでしょうし、なかなか引越すことも出来ません。東京は此の頃すっかり物価が上ってしまって、今まで十銭で買えたものも十五銭位になってますし、自炊をするのもなかなか大変です。それなのにこの頃は気候がいいせいか、とてもおなかがすいて、どうしてもたくさん食べたくなるんです。こんなではいけないと思ってこの間から休憩時間にも出来るだけお菓子を買ったり、うどんを食べたりしない様に気をつけているのです。私はそれに、ほかの事務員や、デパートにつとめてる人達の様に、着るものやなにかにはあまりお金はいらないし、お化粧だってそんなにしないんですけれど、それでもたまのお休みにはゆっくり一日遊びたいと思っても、それも出来ない様な時が多いのです。私だって、お休みの時に着る着物だって一枚位新しいのが欲しいし、よっぽど先月はお母様の方へ送るのをやめて村野さんとお揃いの銘仙を一枚買おうかと思ったんですけど、やっとがまんしたのです。お母様もどうぞ私の気持も、少しは察して下さい。
 大変におこった様なことを書いてしまいましたけれど、どうぞお許し下さいませ。そのうちにもう少しよけいにいただかれる様になったらきっとお母様のおっしゃるだけのことは致しますから、それまでどうぞ待って下さい。今月はともかく一円だけよけいにしてお送り致します。

お役所づとめはつまらない
内閣××局 松田きみ子 二十二歳
 私のお給料と云ったら、たった二十八円です。だけどこれでもここへはいった時からくらべれば五円ばかり多くなったのですが、よっぽどつましくしなければやってなんか行かれやしません。だって大体こんな具合になるんですもの。
 10円---お母さんへあげます。
 3円---市電の定期。
 5円---お小遣い。
 5円---貯金。
 5円---被服費と云った様なもの。
 お母さんには毎月いただくとすぐ新しいピンとしたお札をあげます。お母さんもとてもうれしそうですし、私もとてもうれしくて、いい気持です。貯金の五円も必ず致します。結婚する時の費用にする為に---お賞与が出た時はもっとたくさん致しますけど、でももう二百円程になりました。お小遣いの五円は、お友達とお休み時間にアミダをしたり、日曜に映画を見に行ったり。ですから、毎月十日頃になると一文なしになっちゃう時が多いんです。被服費はやっぱり女の人が多いとこなんで、五円じゃたりない位です、お化粧代とそれから、お役所の方で出来てる××会の月賦に払うと毎月大抵たりません、仕方がないとお母さんから出していただきますけど、ああ、ほんとにお役所づとめなんてしみったれでいやだなぁ。ダンサーかなんかになってけた違いのお金をぱっぱっとつかってみたくなっちゃいますけど---。

生活のデザインは難しい
××洋裁学院 木下紅子 二十五歳
 親愛なるミコちゃんよ。
 何も私が春山青年と三晩続けて銀座を歩いたりホールへ行ったからと云って誤解はしないで欲しい。残念乍らあの青年は絶対にボーイ・フレンド以外の何ものでもない。何故ならば---おかしくって、あんな青年と私が結婚できると思って? そりゃあいろんな理由も立つだろうけど、いちばん割切れすぎるのは、まず経済問題よ。
 現在私の月給は六十円ぽっきりしかないけど---さて、その支出。
 十四円 部屋代 こんなインチキ、アパートでも月給の四分の一するんだからな。
 十五円 これが食費さ。朝が十銭で昼と夜が二十銭の予算、情けないなあ。
 四円五十銭 タバコ。
 十円 ぐらいはお茶やチョコレートで無くなるだろう?
 十五円 これで身につけるもの一切を苦面(ママ)するわけ いくら洋裁師だって辛いよ。

これで、月給はもうおしまい。あと内職のデザインやちょっとした流行記事の翻訳やらでお小遣い稼ぎだけど、本だって買わなくちゃならないしね。春山青年の収入は目下のところ八十円とのこと。私がアパートで温和しく御飯炊きをして暮すにしたって、時々は洒落た服の生地くらい見れば欲しくなるにきまっているしたまにはお酒だってのみたくなるかもしれないし---そんなゼイたくは云わないつもりにしたって、一寸やりきれないな。本当よ。
 さて、そうなると心細いかぎりだな。だってたいがいの青年たちの収入なんて春山青年とたいしたちがいがないにきまっているんだもの---これじゃ当分---ああこの当分がいつまで続くか知らないけど、結婚なんて、夢みたいなもんでしかありゃしない。
 いっそ地味なお役所づとめでもしてりゃよかったと、この頃しみじみ思うこともある---なんてのは嘘。ほんとうよ。

image1


<旧字体、旧仮名遣いについて>
旧字体及び旧仮名遣いは、新字体に改めました。また、現在一般的に読みづらいと思われる漢字についても、ひらがな及びカタカナに改めました(伯林→ベルリンなど)。
ただし送りがなは、現在一般的に使われているものとは違いがありますが当時のままに記載しています(暮らし→暮し、上がり→上りなど)。

<掲載について>
著作権法における、団体名義の著作物=公表後50年で保護期間終了という解釈のもと記事を全文掲載していますが、​問題がありましたら こちら からお知らせいただければ幸いです。