桑野通子メモ #4 「あたしの靴 桑野通子」

2018.09.22

僕の趣味 あたしの趣味 「あたしの靴」
蒲田・改題 オール松竹 1936年(昭和11年)2月号
発行所 映画世界社 定価40銭


 靴は、何と言ったって銀で彩色してあるものに限る—って、以前のあたしは、必ず銀でもって、ぎらぎら彩られてあるものばかりを好んでいたのでした。
 けれども、何ぼ何でも、銀の靴なんて、ダンスホールのクリスマスがそう毎日ある訳ではないし、それに銀座の歩道なんかを何回となく歩いていたら(—あたしこれでも、とってもよく歩く方なんですの—)、もう一ツ月も経たない内に駄目。
 だから、此の頃では経済的意思も手伝うんでしょう。靴は簡単だけれども、軽くて丈夫なものにして実用向きのものにきめているのですの。
 そんな訳で、あたし同じ靴を二足も三足も買って、それを取っかえ引っかえに、履くようにしています。人様の話によりますと、一足を履きづめにするよりも、此の方が経済的だとかいうお話—あたしの靴に対する趣味も矢っ張りこうした経済的な方面に関係して来ているのです。
 それですから、
「あら、桑野さん、毎日同じ靴ばかりお召しになってるわねえ」
 と、言われようものなら、さア今度は途轍もないあたしの気焔です。
ちがうわよ。昨日のは、ほら!靴の先に一寸きずがあったでしょう。今日のはなくてよ。ちがってるわよ」
 と、それからはあたしのお得意の壇上、色々と靴に対するあらゆる知識を投げ出したりしてのお喋言しゃべりをします。
 ええ、勿論この頃ではあたしのその癖を知ってるものですから、あまり聞きたがらないようですけれど……。


<旧字体、旧仮名遣いについて>
旧字体及び旧仮名遣いは、新字体に改めました。また、現在一般的に読みづらいと思われる漢字についても、ひらがな及びカタカナに改めました(伯林→ベルリンなど)。ただし送りがなは、現在一般的に使われているものとは違いがありますが当時のままに記載しています(暮らし→暮し、上がり→上りなど)。

<掲載について>
著作権法における、団体名義の著作物=公表後50年で保護期間終了という解釈のもと記事を全文掲載していますが、​問題がありましたら こちら からお知らせいただければ幸いです。